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暗闇の中をずっと歩いてきたら
壁につきあたった

黒い壁は周囲の暗闇に溶け込んで
上を見上げても左右を見ても
どこまで続いているかわからない

行くべき場所はわかっている
この壁の向こうなのに

まず乗り越えてみようかと思った
でも高さがわからなかったので
それはすぐに諦めた

次に避けることを考えた
右へ行ったり左へ行ったり
でも壁がよほど長いのか
壁がついてきているのか
向き直るとまたそこに壁
そうしてやっぱり諦めた

そして壊せないかと考えた
でも特に道具も持っていないので
とりあえず一発殴ってみた
やっぱり拳が痛いだけだった

しばらく途方にくれたけど
そうしていても仕方ないので
壁と向き合ってみた

時には開いた目で
時には閉ざした目で
けれど心だけはそらさずに
ずっと壁を見つめていた

ふと小さな声が聞こえた
壁の向こうからなのか
それとも心の奥底からなのか

かべではないよ
かべではないよ
それはね…

壁を手でなぞってみた
最初は縦に、次には大きく手を振るように
上から下へ左右へとなぞっていたら
ふと指先にコツンという感触があった

手を右に振れると、コツン
手を左に振れても、コツン
上の方から下の方まで
左右に振れる手の真ん中あたりで
かならず、コツン

コツン、とする箇所を
上から下までなぞってみたら
縦一直線の僅かな段差があった

それは一枚の壁ではなかった
右の一枚と左の一枚とが、合わさったもの
そう気づいた時、全てがわかったんだ

向かって右の一枚に右手を当てて
全身を傾けて足を踏ん張って
全力でそれを押してみた
勢いをつけて何度も何度も
そうしたら壁は鈍い音をたてて
少しづつ、またすこしづつ動き始めた

縦一直線の僅かな段差が
縦一直線の僅かな隙間に変わり
そして隙間は縦一直線の
白い光の筋に、変わっていった

押すたびに隙間はひろがって
隙間からはどんどん白い光が溢れ出して
やがて全てを押し切った時
まるで朝のカーテンを開けたあの瞬間のように
僕の眼の前に、白くまぶしい
新しい世界が現れた

そう。それは壁ではなかっんだ

すっかり壁だと思いこんでいたそれは
僕の行く手をさえぎる壁ではなくて
僕が新しい世界へ踏み込むための
僕を新しい世界へ迎え入れるための

それは、扉だったんだ


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