Diary


平成二十年 葉月



■2008/08/04 月
 午後から雷雨、灼熱のアスファルトの上にも30分後には点々と水溜り。水溜りに雨、無数の波紋。波紋のひとつひとつ。落ちる雨粒はひとつなのに、波紋はふたつ、みっつ、拡がるのはどうしてだろう。ひとつの出来事。拡がる想いは、ふたつ、みっつ。いや、もっともっと。
 そんなことを思い出しながらこれを書いている今。帰り道使った折りたたみ傘を乾燥させるためにかけていた除湿機の貯水タンクに水が落ちる音、ピチャリ。

 水面。心、というものは水面のようなものだ、と、自分は思っている。感じるためには、その水面を揺らし、波立たせなければならない。けれど、その水面下にあるもの。深い深いところにあるものを見つめるためには、その水面を鎮めなければならない。でもいくら鎮めても、見る角度と明るさとの具合が悪ければ、見えるのはその水面に映った自分の顔ばかり。ため息つくとそれで水面はまた乱れ、そこに映る自分も顔もまた、乱れて歪んでしまうのだ。

 心の役割。それは感じることと、想うこと。
 感じることとは、心を揺らすこと。それはすなわち、水面を揺らし波立たせること。
 想うこととは、心の奥底を覗くこと。すれはすなわち、水面を鎮め覗きこむこと。

 バランス。


■2008/08/09 土
 今週はずっと不安定な天気。朝晴れていたと思ったら、午後からまた雷雨。落雷の乾いた音と閃光。NHKでオリンピックの開会式を見ていると、落雷の度に画像にノイズが入る。そうしてしばらく。放送設備に落雷したのか、今度は画像がダメになる。しばらくして復帰。しかし、今度は停電。それもまた、しばらくして復帰。
 そんな雷雨も夕方にはぱたっと止んで、晴れ間が覗く。ベランダへ出たら富士山がはっきり見えた。山頂が白くなっていたので驚き、この前登山したメンバーのひとりにメール。おぉっ、とメールが返ってくる。

 −そういえば昨日、皇太子が富士山に登ったらしいよ。富士宮口から。
 −今日だったら悲惨だったろうなぁ。雷だの雪だの。

 そんなやり取り。


 ふと思い出した。近くの神社にハルニレの巨木がある。北海道ではポピュラーな木だけど、こちらにはあまり無いらしい。樹高も樹齢もかなりのものなので御神木扱いされている。
 で、北海道にはそのハルニレと雷にまつわる神話がある。ハルニレはチキサニという女神、雷はカンナカムイという男神。ある日、カンナカムイが地上のチキサニに魅入られて、その上に落ちた。その稲妻にチキサニは燃えてしまうのだけど、それにより地上に火が産まれ、その炎の中から、一人の赤子が産まれた。その赤子が女神イレシュ・サポで後に人間の祖神アイヌラックルの姉神となる。…と、簡単に書くとこんな感じの物語。

 雷を神の成せる業に見立てたお話には「神の怒りに触れたものに稲妻が落ちる」という物語が多いのだけど、「神に魅入られたものに稲妻が落ちる」という、こういう物語もある。


■2008/08/14 木
 月が沈んだ後。日付が変わってから車を出し、富士山の五合目へ向かう道を登ってゆく。とはいえ、五合目駐車場は登山客の車で満杯なので、そこまではいかずに途中の開けた所に車を置く。所々雲に覆われた星空。その高い所にカシオペア。1時間ほど空を見上げて、見えた流れ星は10個ほど。
 帰りの下りで、車のブレーキに違和感。ブレーキを踏んだ時にコンコンコン、という音がし、それがペダルを通じて足にも感触として伝わってくる。帰ってから前輪のホイールを触ると熱い。とりあえずそのまま放置し、ひと眠りして、昼近くに起きて、午後から車を点検。前輪のブレーキキャリパーが固着、ローターを両側から挟みこむブレーキパットのうち、片側(内側)が常にローターに接触している状態。になっていた。固着している側のローター表面を指で触ってみると、摩擦面が偏磨耗。前輪は左右とも同じような状態だったので、車屋でちょっと見てもらうことにした。
 リフトで車を持ち上げてもらい足周りを見るとやっぱり酷い。特に錆びがすごい。車自体もう13歳、北海道で夏は海水、冬は融雪剤まみれになって10万キロ以上も走っていればこんなものかねぇ。むしろ環境を考えたらよく持った方かもねぇ、という話をメカニックさんとしながら、部品交換とオーバーホールの相談。ただし、今はパーツ屋さんが夏休み期間中とのことで、車の持込はまた後日になる。うー。10万はかかるなぁ。

 という感じの夏休み最終日。


■2008/08/24 日
 休み明けから仕事がなかなかハードなので、なかなか車を修理に出しに行けず。出してもなかなか取りにいけず。それをやっと先日受領してきた。前輪のローターの交換、前後輪のパッド交換とオーバーホール、ブレーキオイル交換等々で6万8千円。なので10万もかからなかった。
 ちなみに、今月は総走行距離が10万キロを越える直前にエンジンオイルの交換とエレメント交換、ATFの交換もしている。そして10万キロを越えたところで今回のブレーキ関係の修理。で、こういうことを記録しておけば後々、次の交換・修理の周期を知るのに役に立つかな…と。ふと思って記録。

 こういうのが本来の日記の使い道なんだろうなぁ。


■2008/08/29 金
 昨日と今日にかけて東海地方は大雨、かなりの被害、というニュース。でも、ここも一応東海地方なのだが、それほどでもない。今日は朝は晴れ間も覗いていた。で、昼休み、携帯が鳴る。登録されている番号からではなかったが、とりあえず出てみる。

 自 「もしもし…もしもーし」
 相 「…あ、あんたぁ。そっち雨どーなのさぁ」
 自 「はぁ? えぇと、どちらさまですかぁ?」
 相 「えっ、あ、あぁ、すみませーん…」 ピッ

 どうやら大雨に伴う安否確認の電話の間違い電話だった。が、危なかった。「いや、こっちは全然降ってないよー」と、もう少しで話がかみ合うところだった。というか「いや、ものすごい被害受けちゃって。至急お金が…」とやっていたら…という想像はよそう。
 ニュースで北海道の地元も土砂崩れで線路が不通になったり、床下浸水何件、とかやっていたので、実家にメールをする。しばらくしてから返ってくる。内容を見てちょっと考える。

 『こっちは大丈夫だよ。朝からバケツひっくりかえしたような雨と雷!』

 いや、それはこれから大丈夫じゃなくなるんじゃないか?
 まぁ、そのくらいの大雨はよくある土地。とはいえ。何かのんびりしている。

 
■2008/08/30 土
 18日から休み無しの仕事もひと段落。今週末は普通に休み。
 8月9日に書いた富士山の冠雪(実際には「ひょう」だったらしい)が、観測史上最速の初冠雪、として認定されたという。冠雪から認定までタイムラグがあるのは、その雪が「昨冬の最後の冠雪」か「今冬最初の冠雪か」の境が、その年の最高気温を記録した日になる、ということによるらしい。つまり、9日以降、今夏の最高気温は更新されなかったし、これからも更新されることは恐らくあるまい。ということで初冠雪に認定します、ということのよう。

 もう今年の最高気温の更新はない。ということは。もう今夏も終りですね。


■2008/08/31 日
 雨予報を覆して晴れていたので、昼飯を兼ねてドライブに行く。隣の県まで行って、2、3箇所周って折り返しの百二、三十キロのドライブ。晴れ、時々曇り、所により雨。というより、常に移動しているので、晴れている場所にいたり、曇りの場所にいたり、雨の場所にいたり。そんな感じ。
 小雨の中を走っている時、ふと右を見る。遠くに厚い雲。その切れ間から、太陽の光が筋になって地上に降り注いでいる。空から真っ直ぐに斜めに伸びる、神々しい光の束。

 あ、あそこ。と助手席に言う。ふふっ、何かが降りてくるみたい。
 わ、ほんとだ。写真、撮れるかな。と、助手席からカメラの音。うーん、ちょっと遠い…。
 じゃ、あの下まで走るかー。わはは。
 えーっ! あははは。
 でも、あの下に行ったらきっと、フツーに空晴れているだけなんだろーな。
 ですねー。離れて見るから綺麗なんですよねー。

 …虹と同じ、だね。

 で、あれ、何て言ったっけ。ほら。神の…じゃなくて。ああ、そうだ!
 えぇーと、あれは、ですねぇ…。

 自 『…天使の、階段!!』
 助 『…天使の、梯子!!』

 え、そうだっけ?

 階段、じゃなかった?
 えー、梯子ですよ!

 んじゃあ。まっすぐなのが梯子で、斜めなのが階段…ってことで。


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