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平成十七年末 中編


■2005/12/30 金
 太陽が昇る前に走り始める。この辺りの海岸路は「日南フェニックスロード」という愛称がついている。フェニックスというのは不死鳥ではなく、この道端に植えられている、いかにも南国、といった植物のことらしい。

 ぱっとひらけた砂浜に下りて、散策中に日の出を迎える。

 前に能登で拾ったのより少し丸い形のサクラ貝が落ちていた。他にもとんがり帽子の巻貝だとか、見たことのない貝殻ばかり落ちているので楽しい。

 再び走り初めて、あるカーブを抜けた所で前の車が急ブレーキ。こちらも慌てて停まって前を見ると、猿の群れが道路を横断中だった。ニホンザルは春の丹後半島以来。車や人には慣れているよう。すぐ脇まで車を寄せても逃げる気配がないので、写真を撮らせてもらう。




 フェニックスロードの終点は都井岬。御崎馬、という日本在来の野生馬がいるらしいので寄り道。小学校の音楽の時間に「野生の馬は〜」という合唱をやったなぁ。入り口で保護費用400円を払って(立派なパンフレットがついてくる)岬先端へ向う。途中の草原の広がり具合に、ふと襟裳岬を思い出す。岬の中ほどに「うまの館」という施設があったので情報を仕入れようと寄ったけれど、ここも年末でお休みだった。
 まだ低い太陽に向って走る形になったので、馬はどこにいるか目を凝らしても、強烈な陽射しで視界がきかない。動物の影は何ひとつ見ないままに灯台まで来てしまう。


 脇道に入り御崎神社という断崖の神社へ。周りはソテツだらけ。ソテツの落ち葉が積もった地面の上には、所々馬糞が落ちている。

 新しいのもあるから、いることはいるのだろう。と、再び車に乗って本道に戻ろうと走る。そしたら、いた。しかも道路の上に。

 馬を追い越して車を路肩に寄せて降りる。この馬も車や人はあまり気にしないようで、路肩の草を食みながらどんどんこちらに向ってくる。
 子供の頃に、近所の大きな馬(ソリを引くような馬)に首の後ろをカポッと噛まれたことがあったのを思い出す。けれど、この馬は大人なのだろうけれど、頭は自分の胸の高さほど。寄ってくるままにまかせる。でも、「野生馬なので危険だから近寄るな、触るな」とあったので、目の前まで来たところでちょっと離れようとする。すると目が合って、草を食むのをやめてカツカツと真っ直ぐこちらに来て、頭をすり寄せてくる。冬毛なのだろうけれど短いゴワゴワの毛並。獣の匂い。少し戯れてから、ほらっ、と送り出して距離を取ると、馬も離れて路肩に戻る。
 戦国時代に騎馬武者が乗っていた馬は、こういう馬なんだろうなぁ、と思う。でも、この馬で時代劇を撮ったら迫力なさそう。


 復路では、さっきはどこにいたんだ、というくらい多数の馬がいた。厳密にいうと野生、というよりは放牧なのだけど、餌場や水場が特にもうけられているわけでもなく、管理は最低限しか行われていない様子。夏は雑草地なのだろうけれど、温暖なここでもさすがに草は枯れている。なので、どの馬も皆下を向いて、一心に唇を地面に這わせている。だから撮れたのは下を向いた写真ばかり。






 大人の馬に比べると毛足が長くてモコモコだったこの子馬だけ、顔を上げた写真を撮らせてくれた。

 全体的にここの馬は、人懐っこいというほどでもないけれど、人が近づくとこちらに歩いてきて、顔をすりよせてくる。やはり、これだけ一般の人々が入り込む状態だと、多少は餌付けされてしまっているのだろう、という感じだ。でも、寄ってきても「何もないよー」とやると、あとは無関心で食事を続けている。

 馬がいる丘陵を歩き回ってから道端の車に戻った時、自分の車のナンバーを見てひとりのおじさんが声を掛けてきた。 北海道からかい。 今年北海道から来たから、まぁそんなところ。 俺は斜里郡斜里町。 へぇ、道東じゃないですか。 でも夏は北海道、冬はこちらで仕事をしている。 ふふ、渡り鳥みたいっすね。 そんなやりとりをしながら互いの視線を平行に戻して斜面で草を食む馬達を眺める。




 北海道に住んでいてもいいよなぁ、ここの景色は。おじさんがいう。そのとおりだと思う。で、どちらまで。と訊かれる。せっかくだから、一番南の端っこ、佐多岬まで。
 じゃぁ、道中気をつけて、と別れる。あちこちで糞を踏んだので、パンパンと靴底を払ってから車に乗り込む。


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