Back


硝子石


深い空のような青色の
ガラスのコーヒーカップ
そんな頃がありました

あなたの両手に大切に
包まれていた時もあったのに
けれどもある時パリンと割れて
鋭い欠片になりました

拾い上げようとしてくれた
あなたの指先傷つけました
それからも触れようとするもの
すべてを傷つけました
そうしてやがて誰も触れなくなり
外へと放り出されました

外では何度も足蹴にされて
ある時ぽとりと側溝に落ちて
ずっと泥に埋もれていました

やがて水に流されて
川の底に埋もれていました
大雨降る度、川底で
大石小石に揉まれていました

鋭さ武器に戦ったけど
いつしか鋭さも砕かれて
ようやく海へ出た頃には
鋭さも輝きもない擦り傷だらけの
ただの欠片になっていました

海と砂とが混じりあい
白波を寄せる波打ち際で
他と混じり合うこともなく
小石や砂たちと互いを削りながら
ずっと波に洗われていました

このまま削られ続けていたら
そのうち無くなってしまうのでしょう
そう思ったこともありましたが
ある日、大波に押し流されて
砂浜へ打ち上げられました

その時にはもう細かい傷だらけで
すりガラスのように鈍い色になって
浜辺で青白く干からびていました

ふと足音が聞こえました
陽射しを遮り誰かが覗き込みました
そしてその誰かの手が
あの時のように差し伸べられました

駄目、触れないで
また、傷つけてしまう

けれど、石や砂。波や歳月に磨かれて
欠片はすっかり丸くなっていました


 ねぇ、青い石拾った!

 見せてごらん
 ああ、それはね、ガラス石だよ

 ガラス石、って?

 元々はガラスだったけれど
 割れて海の中で磨かれているうちに
 石みたいに丸くなったんだよ

 これがガラスなの!
 でも、透明じゃないよ?

 擦りガラスと同じだよ
 水に濡らしてみてごらん

 あ、透明になった!
 綺麗な青! 宝石みたい!

 本当だ、珍しい色だね
 ビールの瓶なら茶色だし
 お酒の瓶なら緑もあるけれど
 青ってのは本当、珍しいね

 元々は何だったのかな?

 何だったんだろうね
 持って帰るの?

 うん、宝物にするの!


深い空のような青色の
ガラスのコーヒーカップ
そんな頃がありました

けれどもある時パリンと割れて
大切にしてくれたひとを傷つけて
それからいろいろありまして
でも、もう誰も傷つけることなく
再び両手に包まれています

それでもまたパリンと割れたら
今度はこの手をも
傷つけてしまうのでしょうか

いいえ、きっと大丈夫です
コンクリの床に落とされたって
今度はそう簡単に割れたりしません

欠片はもう誰も傷つけません

元の形を失って
ずいぶん小さくなったけど

今はまあるい、硝子石


>> Next

Back