Azure Diary


平成二十四年 皐月



■2012/05/06 土
 連休間、平日の一日は都内に行って日本橋周辺で銀行の窓口巡り。北海道の銀行もこの地区には支店があるので住所変更などが一気に片付く。次の日は部屋のエアコン取り付け工事。ベランダのタイヤにもカバーがかかった。そして昨日は横浜へ足をのばす。横浜駅からみなとみらいへ、お店をうろうろしながら赤レンガの倉庫へ。土砂降りになったので、屋根のある施設はどこも人だらけだった。倉庫の中も同じく。なので、ちょっと離れた海上保安庁の施設に併設された、以前の不審船事件の工作船の展示館を見てくる。そして横浜スタジアム近辺をまわって帰宅。それ以外は、歩きや自転車や車で近場を探検。
 と、そんな感じの連休。今日は天気も良かったし満月でもあるので、夕陽と併せて月の出も見に行こう、と地図を開く。(先日訪れた)海上保安庁のホームページで暦を開き、グーグルマップでこの地区の座標(緯度と経度)を取得。それを暦のページに入力し、日の入りと月の出の方角を得る。そうすると、日の入りの方角は北を0度として時計回りに291度、月の出の方角は同じく時計回りに109度。ということがわかる。あとはその角度を地図に分度器を当てながらあてはめる。そうして色々な地点を比べて、日の入りと月の出、その両方を見るのに良さそうな、どちらの方角にも山や市街地がなく、海に向かって開けている。そういう地点を探す。
 そうして夕方の六時頃。三浦半島先端の港へ到着。今夜のこの場所からだと、夕陽は小田原方面に沈み、房総半島の鋸山の下辺りから昇る月になる。そして、着いた時には既に月はもうそれは鮮やかに昇ってきていたが、夕陽は雲で途中で消えてしまった。あとはそこらで釣りをしている人を見物して帰ってくる。風が強かったので釣りにはなっていなかったよう。

 この辺りの港や漁港。ふと気付いたのは、その防波堤が大抵、厳重な柵やら壁やらが築かれていて、ことごとく立ち入りができないようになっていること。そして、目につくどこの海岸も、気軽に車を置くスペースがない、ということ。何というかこれは、首都圏の海の特徴。やがては隙間をみつけてゆくのだろうけれど、今はまだ、近くてちょっと遠い、海。まだ本格的な海シーズンでもないのに、帰り道は結構な渋滞だった。夏になったらどうなるのだろう。

 今日は近地点の月。近地点はペリジーというので、この月はペリジームーンと呼ばれる。ペリジームーンは満月とは限らない。新月の場合もあるので、その月が満月の時、それは「おい、今夜のペリジームーンは最高だぜ!」という意味で「スーパーペリジームーン」と呼ばれる。前回のペリジームーンは新月だったけれど、今回は満月のスーパーペリジームーン(略してスーパームーン、なのかな?)。
 ということで、昨日も今日も、どれどれどんなものかな、と、何度かベランダから月を眺める。けれど、そうしていて気付いたことがある。この場所から満月を眺めるのは、引っ越してきたばかりの時の一度だけ。なので、自分にはこの月が普段よりどれだけ大きいか。眩しいか。それを比較できるほどの「普段の月」が、まだ無かった。

 まぁ、これからこれから。けれど。ここからの月は、東京の月よりは確かに眩しく。



■2012/05/13 日
 先週に引き続き、海岸を車でふらふらと。ここら辺の海は、海岸のすぐ脇を幹線道路が走っており、道路と海の間には車を停められる広いスペースがない。所々には海岸に車を乗り入れる道があったりするけれど、そうした場所や他の車を置けそうなスペースには、どこも既に車がねじ込まれているような感じ。それ以外の車を置けそうなスペースには大抵「駐車禁止」の標示。そして、広い空間があると思ったらそこは大抵、有料駐車場になっている。
 タダでは車を絶対に海へ近づけさせない、というある意味徹底した地元のこの意思表示を見ると、夏はこの辺りの海岸がどんな状況になるのか。何となくわかってくる。自転車で渋滞する車の列を相手にアイスクリンでも売って歩くと、いいお小遣いになるかも知れない。
 それでも。国道が内陸に向って分岐してゆき、海岸を走る道が細道になると、海沿いにも空き地がちらほらと。そうしたところに車を停めて、砂浜をふらりと歩いてくる。砂浜なのだけど、所々に岩礁。その岩礁が特徴的で、海から斜めに飛び出している層状のものが多い。斜めになった地層の、岩の部分だけが残っているような感じ。
 目前に広がる海は東京湾。大きな船が行き交っている。水平線の向こうには房総半島。その距離が思ったよりも近い。そういえば子供の頃、この東京湾と、北海道の噴火湾は同じくらいのサイズなのだと思っていた。というのは、当時身近にあった日本地図では、その両湾のサイズがほぼ等しかったから。けれど、それは違っており、実際は噴火湾の方がかなり大きかった。当時自分が見ていた地図は、北海道のみ、一枚の紙に全国を収める都合でサイズを若干縮小して記載された地図だったのだ。
 その認識誤りはその後、様々な地図に触れるうちに修正されたのだけど、今実際にこうして東京湾を一望してみると、はっきりとわかる。対岸まで一番近いところで10キロを切る東京湾に比べると、噴火湾は最狭部の室蘭〜駒ヶ岳間ですら20キロを超える。噴火湾って本当にデカいんだなぁ、と。

 そんなことを思って見ていたら、距離感も違うし方角的にも正反対なのだけど、何となく房総半島が渡島半島のように思えてきた。そしてふと、対岸に聳える駒ヶ岳が見えたような気がした。


■2012/05/21 月
 本日は代休。偶々である。決して日食に合わせたわけではない…が、もしこちらが雨なら晴れの地点まで走れるなぁ、と。でも、天気予報を見ると、金環食の観測エリアはどこも似たような感じ。ここも薄曇りの予報。それならここで、と。そう判断した矢先、昨夜は寝る頃に雨音。6時頃に起きると霧雨。これはちょっと無理かもなぁ、と。
 やがて曇りから薄日に転じる予報ではあるけれど、アメダスの衛星画像を見ると、雲の切れ間が現れるのは半島先端の方が速そう。ということで、早々にこの場所に見切りをつけて車を走らせる。そうして、先週訪れた海岸へ。車が何台も停まり、日食観察グラスやら掌やら様々なものを空に掲げて、空を見上げている人たちがいる。駐車の車も多かったが、なんとか空きスペースを見つけて車を停める。
 太陽は、そこにあるのは判るのだけど、雲がかかって輪郭がわからない状態。隣には空を見上げる親子連れ。どうですか、と訊くと、ああ、いま綺麗に見えてますよ、と。自分はサングラスだったのでそのまま見上げる。そうすると月が太陽の中心にかかる手前のところで、雲がちょうどいいフィルターになっており、サングラスのままではっきりと三日月のような太陽が見えた。所々、厚い雲が被って隠れたりもしたけれど、やがて金環食も無事に見ることができた。
 雲は厚くなったり薄くなったりを繰り返し、薄くなったところではフィルムのネガの端っこの感光して黒い部分、を使って見ていた。雲の厚さに応じて2枚、3枚と折り返すことで濃さを調節できるので、いい感じ。隣では親子の子供たちが、ひとつの日食観察グラスをかわりばんこしながら、空を見上げている。こういうのもまた、いい感じ。
 こういう時もそうだし、観光地などでもそうだが、こうして誰かが、何かを、真剣な眼差しで見上げている顔はいいなぁ、と思う。カメラを向けている人もそう。カメラを向けて、それをどう良く撮ろうか、としている時。実はそれを撮っている自分の方だって、いい顔をしている。富士山頂でご来光を迎える時もそう。自分はそういう時。ご来光を撮るよりも、なんだかそれを見ている、カメラを向けてファインダーやモニターを覗きこんでいる、そういう人の。その表情を撮りたくなることがある。

 金環食を過ぎて、日が三ケ月形になった頃。再び雨になる。本当に、今回はたまたまの休みに、たまたま、雨と雨の間に日食を見られることができた。…と書いていて、ふと思った。自分がいま、この金環食を見られるエリアに住んでいる、ということ。それがそもそも、一番のたまたま、だった。
 次の金環食は、2030年6月1日、場所は北海道だそうで。ひょっとしたらその時もたまたま、北海道にいるかも知れない。18年後か。どこにいるやら。ただ、その時この日記が残っていたら、18年後の自分はこの日を思い出してこの日記を読み返すのだろう。

 どうしてる? 2030年の、自分。


■2012/05/31 木
 クールビズで周りが半袖、ノーネクタイになってゆく中、自分はまだ、袖は捲っているけれど長袖のワイシャツでネクタイもしている。それをどうしてか、と訊ねられたので「いや今から軽装になっていたら夏になった時にそれ以上軽装になれないでしょ」と答えておいた。今から全部脱いでしまったら、夏に脱ぐものがなくなっちまうよ。

<< 卯月   目次   水無月 >>
Kaeka Index.