Azure Diary 平成二十四年 長月 ■2012/09/01 土 こちらに来てからよく海に行く。何をしに、というわけではないが、海が近いので。駆け足も距離の半分近くは海岸線だし、買い物のついでにもふらり、と夜の海岸に寄ることもできる。といっても、人が沢山集まっているような海、というのは苦手なので、やはり人の少ない所を選んでいる。これはもう、昔からのこと。 買い物の行きがけに、夜はあまり人のいない砂浜の海岸へ。月明かりの下をふらふらと。先日の満月がブルームーンと呼ばれる月だった。自分はブルームーンというのは文字通り、月の色が青くなるもの、だと思っていた。黄砂による煙霧現象で太陽の色が濃くなったりするみたいに、何かしら夜空の浮遊物の影響で月の色が青く見える現象があり、それをブルームーンと呼ぶ。というのを、どこかで見たことがあるので。 ただ、今回のブルームーンというのはそれとは違う意味で。ひと月に二度満月がある月の、最初の満月をファーストムーン。二回目の満月をブルームーン、と呼ぶのだと。由来を調べると、呼ぶ、というよりは、呼ばれるようになった、というのが正しいよう。本来は青い月の意味、そして、アメリカの農業暦において、一期三ヶ月のうちに満月が四度ある場合の、三度目の月の呼称のこと。それが転じて(実は誤って、らしい)ひと月に二度目の満月を呼ぶようになった、という感じ。 それはともかく。ひと月に二度満月がある、というのは、太陰暦では起こり得なかったことで。今の暦が太陽暦だという、何というか、証しでもある。今回のブルームーンも、月の形は世界共通ではあっても、時差の都合でひと月に二度目の満月、という地域もあるだろうし、そうではない地域もあるのだろう。 と、調べてしまうと、月に二度で珍しい、というのは誠にこちら(人間側)の都合で、月にしてみればあまり関係のないことだったりもする。自分は本当の意味での青い月、を見てみたい。ただ、青い月の観測例が「噴煙の中」とかしか見つからないので、見られてもあまりいいことではないのかも知れない。 月明かりの砂浜を少し散歩していたら、突然、防災無線の放送があった。『…沿岸に、津波注意報が発令されました。海の近くにいる方は充分注意して下さい』と。二度それを繰り返しただけで、震源や地震の規模だとか、津波到達の予想時刻に関する続報はない。すぐに車に戻ってラジオ。震源はフィリピン方面、津波の到着予想は日付が変わってから、とのこと。あと数時間は余裕がある。 海には他に花火をしていたグループが居たので様子を伺うと、防災無線を聞いたけれど次の行動をどうしていいかわからない様子だったので、ラジオの情報を伝えておく。余裕があるとはいえ、長居していると見回りにくる人に迷惑なので、こういう時は早々に退散が正解。買い物を済ませて帰宅。 そうして8月31日が終わり、日付が変わって今日から9月。さすがに海にいる時に津波注意報を受けたのは、人生初だった。津波注意報は、津波の到着予想時刻以前に解除され、やれやれな月のはじまり。ただ、あの防災無銭の放送。もう少し詳しい情報を継続的に伝えて欲しいなぁ、と。そんなことを。 ■2012/09/08 土 潮風ですぐに白くなってしまう車の窓を洗おうと、バケツを持って降りて行った駐車場で「ルームランプ点けっぱなしでバッテリーがあがった」という人がいた。知り合いに連絡した、とのことで、しばらくして救援の車が一台。それなら大丈夫でしょう、と車の窓拭きをしていたが、しばらくして様子を伺うと、二台の車が向き合ってボンネットを開いたまま、そこから先が上手く行ってない様子。 行ってみると、後から来た車が持参してきたブースターケーブルの口金(ワニ口クリップ)が大きすぎ、自らのエンジンルーム内の奥まった所にあるバッテリー端子に繋ぐところまで、口金を差し込むことができない、という状況。加えて。「やり方わかる?」と訊くと、どちらも自信なさそう。 基本、こういう状況に遭遇した自分がまず相手に勧めるのは「JAF呼んだら?」なのだけど。今回はここまで態勢が整っているので、自分の車からブースターケーブルを出してくる。こちらはもっと細い口金のものなので、問題なく繋ぐことができそう。じゃあ、やりますか。 バッテリーが上がった車のブースターケーブルを使ったエンジン始動方法はこう。まず双方エンジンを切る。そして一本の端を、電気を「もらう側のバッテリーのプラス極」に繋ぎ、次に反対の端を「あげる側のバッテリーのプラス極」に繋ぐ。それから、もう一本のケーブルの端を「あげる側のマイナス極」に繋ぎ、次に「もらう側のバッテリーから離れた車台の金属部分のどこか」に繋ぐ。これは繋ぐ際に火花が出るので、バッテリー周辺に繋ぐとバッテリーから発生する水素ガスに引火の怖れがあるため。バッテリーのマイナス端子に繋がなくても、車体の金属部分に繋げば効果は同じ。 ケーブルを繋いだら、あげる側のクルマのエンジンを始動し、回転数を高めに維持。その後、もらう側のエンジンを始動。無事にエンジンがかかったら、繋いだ時と反対の順番でブースターケーブルを外してゆく。電気をあげた側はこれでおしまい。もらった側は、バッテリーが消耗しているので、そのまま充電するならエンジンをかけっぱなしにするが、一度あがったバッテリーは性能が落ちているので、そのままエンジンを切らないようにして車屋に持ち込んでバッテリーを点検し、そちらで充電してもらうか必要なら交換した方がよい。 ポイントは、ケーブルの繋ぎ順なのだけど、まずプラス同士、次いでマイナス(車台)同士を繋ぐ、ということだけ頭に入っていれば、自分は『もらあげあげもら』という呪文で憶えている(もらう、あげる、あげる、もらう、の順)。もうひとつは、エンジン始動の際。あげる側のエンジン回転数を高めにする、を忘れないこと。エンジン始動には高めの電圧が必要なので、エンジンの回転数を上げて電圧を保たないと、相手がいくらエンジンをかけても電圧が足りなくてかからない、ということがある。最近の車は電装品が多いので、エンジン始動の前に双方、余計な電装品の電源もオフにしておいた方がいいのかも。 と、長々と書いたのは、自分に対するおさらいの意味をこめて。こういうことは、たまに実践しないとイザという時、意外と忘れてしまっているもの(または、慌ててしまうと思い出せないもの)。そうしてバッテリーがあがった車もエンジンがかかり、相手も少しかけっぱなしにしておいて車屋に持ち込む、ということで、無事に救援完了。 それから窓を洗って拭き上げて。余りの水でボンネットも洗って、綺麗になったー、と思ったらややしばらくして雨がどざーっ、と。自分が車を洗うと雨が降る、の法則発動。 ■2012/09/16 日 この辺りは海に近く、海に注ぐ川沿いにあるためか。路上にカニがいたり、時にフナムシがいたりする。フナムシはともかく。カニがこんな陸上にいるのは、どこだっただろう。四国のどこかの駐車場での夜に、大量のカニに遭遇した時以来。 この辺りで見るのとは違うけれど、アカテガニ、という、主に陸上で一生を過ごすカニがたくさん棲んでいる森がある、というので、行ってきた。湾に注ぐ短い川が一本あり、その流域が源流から河口まで、大きな人工物もなく保全されている森。遊歩道はあるらしかったけれど、行ってみると、入り口はチェーンで封鎖されていて、「夏場はマムシやらスズメバチが出るので立ち入りは自粛してください」との札。 禁止、ではなく自粛、というニュアンスだったので、まぁ何かあれば自己責任、と。そのまま入ってみる。途中まで道らしいものはあったけれど、この時期は下草刈りも行われていないのだろう。すぐに藪こぎになる。こちらは長袖に半長靴、と、一応本気の格好をして行ったのでよかったけれど、一般の人は恐らく立ち入らないような様相の森。おかげで誰にも会うことなく、川沿いを上流まで歩き、折り返してきた。 どちらかというと湿地に近い森の中。感じとしては子供の頃に遊んでいた森のようなもの。ただ、あちこちに蠢いているけれど、こちらが近付くと物凄い早さでサササッと逃げてしまい、なかなか自分を近づけてくれないアカテガニ。こういうのはさすがに地元にはいなかったので、面白かった。いや、カニが木に登っているところは、これまで生きてきてはじめて見た。カニ以外には、時折まとわりついてきた、この森のセンサーのようなスズメバチ。乱舞するトンボ。そして、タヌキらしい獣。何枚その網を破ったか知れない夥しい数の蜘蛛。マムシは見なかった。 で、何時間か森の中に入っていたが、この時期の湿地めいた森の中にいたにも関わらず、蚊には一か所も刺されておらず。これは「ハッカ油」のおかげ。こういう時は、ハッカ油をスプレーのボトルに入れて虫除けに持ち歩いている(というか、車には常備してある)。 自分の実感として、ハッカ油は最強の虫除けなので、こうした山歩きにはお勧め。北海道のお土産で売っているハッカスプレーでもいいけれど、なかなか買えないし割高なので。ホームセンターの塗料コーナーなどにあるオイルスプレーのボトルと、薬局で売っているハッカ油を使っている。まぁ、お土産のものも薬局のものも、中身は同じなので。 森から出てきたら、ズボンやら服やらがバカだらけになっていた。バカ、というのは以前どこかに書いたかも知れないが、地元での「服にくっつく草の実」の総称で、子供たちがその実をぶつけあって、相手にくっついたら「バカついたー」と遊ぶもの。 それを手でひとつひとつ外し、道端にポイポイと投げながら、ふと思う。ああ、種子散布に協力させられてるな、と。これはもう、入森手数料のようなもの。 ■2012/09/30 日 中秋の名月。ただし、昼過ぎまで晴れていたものの、今日はこれから台風。夜の間に関東を通過する。夕方に買い物を済ませて、帰り道。橋の上から川面を見るとここでは初めて見るくらい、水位が上がっていた。 台風と名月の組み合わせ、というのは、あまりいいものではない。名月は大体が満月で、満月は大潮。大潮の満潮は普段の満潮よりも水位が上がる。加えて、台風は低気圧なので気圧が下がった部分の海面は高潮となる。月による満潮と低気圧による高潮の合算で潮位が著しく上昇するパターン。 こちらにとっては幸いなことに、夕方の現在がちょうど満潮時刻なのだけど、台風はまだ近畿あたり。潮はこれから干潮に向かい、予想進路では干潮の時間帯にこの辺りを通り、翌朝の満潮時刻に過ぎ去っている模様。ただ、夜の満潮時刻に台風が通過する東海、明け方の満潮時刻に通過する東北。その辺りでは被害が出るかも知れない。 そんなことを考えながら17時頃に帰ってくると、防災無線が大雨洪水警報の発令を告げる。こちらの予報発表は結構適切で、先週、京急の追浜〜田浦間の土砂崩れによる脱線事故の際にも、事前に防災無線が「土砂災害警戒情報」を発令していた。結果的には、事前の警戒情報が生きずに事故が起きてしまったのだけど。 やがて暴風となったけれど、その最中に大雨洪水警報は解除になる。今回は風台風のよう。とくに停電もなくやりすごし、日付が変わってから、風もおとなしくなる。虫が鳴きだしている。カーテンを開けると、窓が塩で白くなっていた。ベランダにあるのはサンダルとタイヤのみ。サンダルがひっくり返っていたくらいで、異状はなし。空が明るかった。ベランダに出て見上げると、過ぎ去った台風の後を追いかけるように流れてゆく雲の中を、薄っすらと虹色の光を纏った月がすいすいと渡っていた。名月。そして、正面の雲間にオリオン。 こうして九月が終わり、上半期終了。この街での生活も、ちょうど半年。 |