Azure Diary


平成二十六年 文月

■2014/07/06 日
 この土地が三年目、ということは、この土地で迎える季節は今年が最後になるかも知れない。蛍を見に行った。ゲンジボタルの時期はもう過ぎて、ヘイケボタルがチラチラと光っている。けれども一匹だけ、周囲のヘイケボタルよりも一際明るく飛んでいるゲンジボタルを見つけた。ゆっくりと明滅しながら闇の中を舞うゲンジボタル。けれど、呼び合う相手もなく。


■2014/07/09 水
 台風が近づいている。雨の降る夜。空というのは特に悲しくも優しくもない雨をただ降らせているだけなのだけど、人は空が降らせる雨を時に、悲しい雨と呼んだり、優しい雨と呼んだりする。台風が来ればそれは厳しい雨にもなるのだけど、空にしてみればそれは厳しくもない雨をただ、降らせているだけ。雨の悲しさ、優しさ、厳しさ。それらはすべて、それを見る人のうちにあるもの。

 優しさとはなんだろうな、と考える。人の持つ優しさというのは、相手の悲しさや寂しさ、苦しさ。そういう相手の様々な気持ちに己の心も共に揺れることができる能力。同時に、心は相手の様々な感情に共に揺らされながらもその揺れの中。揺れずにとどまる能力。そのふたつをバランスよく兼ね備えていることだと思う。
 優しい人は強さも併せ持つ、という。けれどもその強さとは揺れないという意味の強さではなく。そうして揺れながらも揺れの中にとどまる能力であり(以前書いた「定点」に似ている)。その強さというのも優しさとは別の物として存在するのではない。揺れる能力と揺れの中にとどまる能力は一体であり。強さもまた、優しさを構成する一要素なのだと。
 そして。優しい人の優しさ、というのは。その人の行う行為のことをいうのではなく。その人の性質や本質そのもののことなのだと思う。優しい人はその手を誰かに差し伸べる時に、その差し伸べる手に優しさを持たせているのではない。その人自身の優しさがその人の手を誰かに差し伸べさせているのだ。だから優しい人がその優しさから差し伸べる手は、時に相手にとって厳しいものだったりする。
 で、反対に、相手にとって優しいと思われるものだけをその手で差し出してくるのなら、その人は優しいのではなく。それはただ、相手に気に入られたいだとか狎つかれたいとか。そういう部類の人なのかも知れない。

 優しさの本質は人であり行為ではない。人から優しくされる時も、人に優しくする時も、そのことはよく区別しておく必要があると思う。その人の優しさがその人の行為を決めるのであり、その人の行為がその人の優しさを決めるのではない。優しさとは対人スキルのことではない。それもやさしさとは呼ばれはするが、人の行為の中にのみ優しさを求めると本当に大切な人の本質的な優しさ、を見失ってしまうような気がする。

 本質的な優しさは、優しさも降らすけれど厳しさも降らせる。空ってのは本質的に、優しい存在なのかも知れないな。


■2014/07/12 土
 この街のお祭り。ふらふらと歩いて花火を見てきた。人も少ないし間近で見られていい場所なのだけど、結局人とは来なかったな。



■2014/07/23 水
 スーパーでパッションフルーツという果物を初めて見たので買ってくる。食べ方が不明だったが見た目はプラムのようなので取り合えず洗って丸かじりしてみたが、カポッと音がして凹んだだけで歯が立たず。包丁で二つに割ってみてようやく食べ方を知った(厚い皮の内側に空洞があってその中にアケビのような果実と種が入っているのでそれをスプーンで食べる、というもの)。経験値獲得。

 お天気ニュースでやっていた各地の最高気温のところで「高知・佐賀○○度」と出ていたのを見て、もういつだったかの四国ドライブを思い出す。高知・佐賀というのは高知県と佐賀県という意味ではなく、高知にある佐賀という地名になる。あの時はこないだの佐渡と同じ同行者で「おお、高知には佐賀がある!」と盛り上がったもの(ちなみにそいつは九州の佐賀県出身なので)。
 ちなみに高知県には佐賀があるのだけど、そこには更に「横浜トンネル」というトンネルが走っており「おお、高知の佐賀には横浜がある!」と道中盛り上がった記憶がある。


■2014/07/29 火
 パソコンに向かっていたらモニターの上にハエトリグモがいたのでマウスカーソルで遊ぶ。ハエトリグモはこの部屋に何匹かいるようで、何を食べているのかは知らないが特に害もなしい、この部屋に虫が出ないのもこいつらのおかげなのだろう、ということにして共存している。あまり床をチョロチョロされると踏むかも知れないが、壁と天井なら自由に行動してもらって結構。あ、でもベッドは不許可な。


 そういえば。いつだったか忘れたが玄関で釣りのリールを分解してスプレー缶のパーツクリーナーで洗浄していた時、換気のため(パーツクリーナーはガス警報器が作動するので)開放していた玄関ドアから無謀にもゴキブリが侵入を試みたことがあった。手にしていたパーツクリーナーを吹きかけられ一瞬で玄関外に吹き飛ばされていったのだけど、あれは間違いなくゴキブリで。思えばあれがゴキブリとのセカンド・コンタクトだったのだと(ファースト・コンタクトについては2010年8月11日の日記参照)。

 部屋に暮らすクモ類とは対照的に、うちに侵入したゴキブリは我ながら不遇だな、と思う。


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